「ガンダム」の富野由悠季監督に会いに行った
わたしはファーストガンダム世代です。学生時代を思い出します。
富野由悠季監督に会いに行ったレポートを樺沢紫苑さんが
メルマガ、「シカゴ発 映画の精神医学」に書いているので引用します。
登録はこちらからどうぞ。
-------------------------------------------------------------------
さて、今年のシカゴ国際映画祭のもう一人のビッグ・ケズトは、
機動戦士ガンダム・シリーズで有名な富野由悠季監督です。
日本では昨年から今年にかけて劇場放映された
『機動戦士Ζガンダム1 星を継ぐ者』
『機動戦士Ζガンダム2 恋人たち』
『機動戦士Ζガンダム3 星の鼓動は愛』
この3部作が一日で一挙上映されました。
そして、シカゴ国際映画祭から富野監督へアニメ功労賞が授賞されました。
私が初めてガンダムを見たのは、確か中学1年の時です。
1回目の再放送のファースト・ガンダムを見ました。
いわゆる、生粋のガンダム世代ということになりましょう。
ガンダムを初めて見たときの衝撃というのは凄かったです。
感動というか、こんな緻密な人間関係のドラマが突然バーンと出てきてしま
った衝撃ですね。
私はガンダムの熱狂的なファンではありませんが、やはり「大好きなアニメ
作品の一つ」であり、少年時代、青春時代の体験の中で不可分な思い出
となってガンダムが脳裏に、そして心の中に息づいているわけです。
ということで、「ウディ・アレンに会いに行く」に引き続きガンダムの
富野監督に会いに行きました。
果たして、富野監督と会うことはできたのでしょうか?
Zガンダムの上映と授賞式が行なわれた前日、10月7日に富野監督を囲み
アニメーションとアメリカ文化、日本文化に関するパネルディスカッションが
開かれました。
これは、かなり白熱したディスカッションになりました。
アメリカでも日本のアニメが受け入れられている理由とか、アメリカと日本
のヒーロー像の違いに文化的な違いが影響しているとか、そういうおもしろい
話題がいくつも提供されました。
私が非常に興味深く聞いたのは、次のエピソードです。
富野監督は、アニメに情熱を燃やしたきっかけとして、敗戦した全てを失っ
た日本。当時の状況で、ハリウッド映画を見て、アメリカの映像文化の素晴ら
しさに衝撃を受け、映画ではアメリカには絶対に勝てないと感じた。
しかし、まだディズニーアニメくらいしかないアメリカのアニメの世界は
まだまだ未熟、未発達で、「アニメならアメリカに勝てるかもしれない」とい
うのが、富野監督がアニメに情熱を注いできたモチベーションとして語られま
した。
戦争で勝てなかったアメリカに、何か一泡ふかしてやろうという
そんな感情です。
普通ならアメリカに来てこんなことは絶対に言わないと思います。
アメリカ人に対する敵意というか、良い意味でいうとライバル心みたい
なもを前面に出した発言ですから・・・。
会場には、アメリカのガンダム・ファンが詰め掛けていましたので、険悪な
雰囲気にはなりませんでしたが、歯に衣着せぬ物言いで有名な富野監督らしい
発言がたくさん聞けて、大変充実したディスカッションとなりました。
ディスカッションの後に、富野監督歓迎食事会というのが、シカゴ日米協会
の主催で催されました。
この食事会、参加費が一人150ドル(夫婦二人で300ドル)とバカ高いのですが、
ひょっとして富野監督と直接言葉を交わせるチャンスがあるのではないか・・・
とささやかな期待を持ち参加してみました。
食事会はかなり格式の高いプライム・リプのステーキの店です。
食事の前、着席する前にカクテル・タイムがあり、ドリンクが振舞われて
立ちながら歓談する時間がもたれました。
富野監督の側には、主催者サイドの方と通訳の方が3人ほどいて、富野監督
と話をしていましたが、一般の人は近寄れる雰囲気ではありません。
先ほどのパネルディスカッションの最中も、観客からの質問に激怒したりす
る場面もありましたから、なかなか気安く声をかけることなど、できるはずも
ありません。
しかしながら、格式高いこの店の雰囲気から考えて、一旦着席してしまうと
話かけるチャンスというのは完全になくなってしまうだろうし、食事の最中に
話しかけるのも失礼な話ですから、チャンスは今しかないなあ・・・と判断さ
れました。
ということで、勇気を出して富野監督の方に近づいていきます。
一メートルくらいの所まで近づき、まず聴衆の一人としてさりげなく
同化します。
富野監督は、先ほどのパネルディスカッションの熱気そのままで、アニメ業
界の話とか、パネルディスカッションの続きの文化の話とか、非常にレベルの
高い話(アニメや業界について周知していないとついていけない話)をされてい
ました。
そんな中、富野監督と一瞬だけ目があいました。
その瞬間、さっと話しに入り込み、「はじめまして、ガンダムファンでシカ
ゴ在住の精神科医で映画のメールマガジンを出しています樺沢と申します」と
自己紹介することができました。
「先ほどのパネルディスカッションは大変興味深く聞かせていただきました」
と続け、会話の輪の中にうまく入り込むことに成功しました。
富野監督はパネルディスカッションが盛況に終わったこともあり、非常に上
機嫌に歓談されていたように思います。
富野監督に同伴されていた関係者の方は、ガンダムなど見たこともない世代
の方たちですから、富野監督の話もあまり理解されていない感じで、私が入り
込みますとスッとと一歩下がったような感じとなりましたので、私はほとんど
独占状態で話すことができました。
話すというよりも、富野監督の話を聞くということですが、時々合いの手を
はさんだり簡単な質問したりということはできました。
話をして思ったのは、とにかくいろんなことを深く考えている人だなあ
と思いました。
アニメに限らず、映画なども良く見ていますし、業界のことも知り尽くして
いますし、アニメ業界の将来や、アニメを志す人たちの心配までしている。
さらに哲学的な話や、文化や人間などについても非常に洞察が深い。
ただ、口調やしゃべり方が、断定的、決めつけ的で相手に反論を許さない
雰囲気もありますから、誤解を受けやすいだろうな、とは思いました。
しかし、クリエイターというのは、このように強く芯が通っていないとでき
ないわけで、安易に協調したり、妥協したりしないからこそ、傑作が生まれる
わけです。
時に頑固で偏屈ともとられるでしょうが、この頑固さこさが、ガンタムの
創作の秘密なのだとも感じました。
ルーカスやスピルバーグという言葉が、会話の中によく出てきました。
富野監督はクリエイターとしては、ルーカスやスピルバーグに負けない作品
を作っているという絶対的な自信を持ちながらも、自分で会社を起こして巨万
の富を得たルーカスやスピルバーグとはビジネスマンとしては明らかに負けて
いることに対する悔しさ、歯がゆさみたいなものを持っているのなあ・・・と
思いました。
ただ、5年以内には、ルーカスやスピルバーグをぎゃふんと言わせてやると
いうなことも言っていたのには、驚きました。
日本人のクリエイターでルーカスやスピルバーグを尊敬したり憧れている人
はたくさんいるでしょう。
しかし、ルーカスやスピルバーグをライバルと位置づけ、それを越えてやろ
うと本気で考えている人間がこんなところにいたのか、という驚きです。
次回作のアイデアもチラリともらしていました(詳しくしは次号で)。
富野監督の話し方には一つのパターンがあって、ほとんどの場合相手の発言
を否定するところから入ります。
いわゆる「NO, but」の論法を好みます。
まずは相手の意見を否定しておいて、そこから論理、対話をスタートさせる
という。
この論法を好む富野監督に、完全主義、理想主義的な性格傾向を感じました。
さて、私も富野監督と話していて何度か合いの手を入れたり、言葉をさしは
さみますが、「いやあ、それは違うなあ」「そうじゃなくて」と、全て否定
されて玉砕していきます。
このままでは、精神科医としての面目がたちません(自分の心の中で)。
富野監督から、何とか「そうだね」と肯定的な言葉を引き出したい。
ということで、話の中で、また先ほどのバネルディスカッションの話しにな
ったので、私が一つの話題を振ってみました。
「先ほどのディカッションの最後で『百年残る映画作りたい』ということを
おっしゃったのには、大変感銘を受けました。
何千本という映画があっても、百年残る映画というのは数本しか
ありませんから」。
すると、富野監督はおっしゃいました。
「そうだね、その通り。あんなことを言ったのは自分でもはじめての
ことだけど、そういう作品のを作ってみたいなあ」と。
今回のパネルディスカッションでは、富野監督が今まで言語化したことのな
いような「自分の想い」を暴露するような発言がいくつかみられましたが、
その中でも私が特に重要だと感じた部分をぶつけてみました。
そて、富野監督と「共感」を得られました。
ある感情を共有できた瞬間です。
アムロとララアの心が通じたような・・・。
私の中にさわやかな感動が走りました。
結局、20分近くもお話させていただきました。
最後には、一緒に記念写真もとっていただき、日本では絶対にできない
ような体験をすることができました。
-------------------------------------------------------------------
富野監督の人柄が窺えるエピソードです。
夢とロマンが蘇りますね。
世界を相手に戦う気概を持ち続けたいものです。
樺沢紫苑さんのメルマガ、「シカゴ発 映画の精神医学」
登録はこちらからどうぞ。



